伊勢丹新宿POP UP STORE✧12.04-12.10

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「記憶の『先』のセーター」 はじまりの記録

STORIES | 2022/03/25

小さなアトリエから旅立っていった代表作「記憶の中のセーター」たち。その物語の続きを紡いでいく、新たなプロジェクト「記憶の『先』のセーター」がはじまります。デザイナー藤澤が、プロジェクトのきっかけと、そこから描くシーンを語ります。

 

2011年から一点物のシリーズ「NEW VINTAGE」を続けてきて、これまで約800着のセーターを送り出してきました。「記憶の中のセーター」は、ヴィンテージのハンドニットを元に制作しています。遥か遠いアイルランドの島々で作られたアランニットを一つひとつ選び抜き、染めや箔をあしらうことで新たな光を当てる一点物です。

数年前に原美術館で行なった「1000 Memories of」の発表を終えて、私の中で「NEW VINTAGE」の第1章が完結したように感じていました。新たな作品を生み出しながらも、代名詞のような「記憶の中のセーター」という一点物たちのことを大事にしたいという気持ちが強くなっていて。7年前から始めたセーターのお直しも、販売して送り出したあとに、もう少し様子を見続けたいという思いから始めたものだったし、セーターを持って、着続けてくださっている方たちにもこの気持ちを残していきたいって思うんです。

構想を練っていく中で、「実行しなくては!」と背中を押してくれた一着があります。アラン諸島に行ったあと、2015年に制作したセーターで、実際に島で見た海や空の色をイメージして染めた一着です。

このセーターをずっと着てくださっている方からちょうど1年前に、「長く着てきたものをネットでリセールするのも違和感があるし、周りに譲れそうな人がいなくて、YUKI FUJISAWAでリペアしてまた次の人に譲ってもらうことはできますか? 誰か次の素敵な人に届いたらいいなと思って…」と問い合わせをいただきました。

このページを読んでくださっているみなさんも同じだと思いますが、大事にしていても自分の年齢や雰囲気が変わっていくにつれて、装いも変化するものだし、ずっと着てきたものでも着なくなるタイミングは訪れるものだと思います。リセールは、今多くのブランドが取り組んでいることですし、時代に沿っていると思うのですが、今〈YUKI FUJISAWA〉で行うのは、なんだか自分自身の感覚にしっくりこなくて。

これまでずっと「NEW VINTAGE」では誰かに一度手放されて流れ着いた素材に焦点をあててきたので、再び流れていくことに違和感はありません。ですが、この「記憶の中のセーター」に関しては、自分がずっと気持ちを込めて、時間をかけて続けて作ってきたものなので、新たなかたちでお戻ししたくて。このセーターと長い時間を共に過ごして、様々な記憶がこの一着に込められている。持ち主自身に、自分が着ていたことの価値や、思い出が戻ってくるようなかたちを探りたい。その思いから生まれたのが、今回の「記憶の『先』のセーター」です。

手編みのセーターの特徴として、毛糸をほどけばまた違うかたちに作り変えることができます。今回は、お預かりしたセーターの糸をほどいて、ミトンとミニセーターに編み直してお届けすることにしました。

ミトンは、定番で作っているものなので、実際に日々の中で使えるものとして。ミニセーターはきゅっと記憶を小さく閉じ込める、お守りのようなものとして考えています。

私は自分が作るものに対して、持ち主がそのものと共に過ごした記憶を重ねていく存在になって欲しいという思いがあります。そうして貯まった大切な毎日のきらめきが、アルバムのように、いろんなかたちになって手元に残ることができたら嬉しいなと想像していく中で、ミニセーターにたどり着きました。例えば、ランドセルも小学校を卒業して使い終わったあとに、小さなランドセルのキーホルダーに生まれ変わらせたりしますよね。そういう光景がいいなって思うんです。今回も、ほかの誰かに渡すのではなく、持っていた人にかたちを変えて戻すということに、私は面白さを感じています。

工程のお話をすると、セーターの糸は、ほどいてそのまま編むことはできません。特にヴィンテージのものは、長い間編まれた状態なので、固まったり縮んでしまったりしているので、まず編める状態に戻すところから始めます。糸を一本ずつほどいて、蒸気で蒸してのばす。くるくると縮んでいる糸をもとの状態にもどしていくイメージです。そのあと毛糸玉に巻いて、そこからやっと編み始められる。すべて手仕事で行います。

「記憶の『先』のセーター」は、私たち〈YUKI FUJISAWA〉が、どういう気持ちでものづくりをしているかを伝える機会のひとつだと思っています。相変わらず合理性もなく、面倒さも含んでいますが、それも含めて自分たちらしくありたいのです。

ブランドを始めて10年というひと区切りを迎えました。ヴィンテージに加工をあしらい仕上げていく過程で、自分自身で一着ずつ見て触れてきたので、蓄積してきたセーターの模様やパターン、デザインなど、今に即したかたちで、新しく作れるのではないか?と思い、今季は初めて職人さんと手編みのセーターを作ろうと動き始めています。

一方で、大事に着続けてくださる方のことを、自分たちのものづくりを通じて大切にできれば、気持ちよく新たなチャレンジが始められると思っています。世界にひとつしかない「NEW VINTAGE」も、今後買い付けが始まってまた新たに作ることができたら、面白くなるだろうなと思います。

「記憶の『先』のセーター」は、〈YUKI FUJISAWA〉の新しい企画に参加するような気持ちで興味を持ってくださると嬉しいです。私自身このチャレンジにどんな反響があるか、どんなセーターが手元に戻ってくるか楽しみです。着続けてくださったセーターの中にある記憶が、先に続いていってくれるよう、願いを込めて作ります。

 

「記憶の『先』のセーター」ご応募はこちらから

 

 

取材/文:菅原良美(akaoni)

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