どんな新しい景色を一緒に見られるだろう──流れ着いたものに光を当てる、手の仕事を続けて│YUKI FUJISAWA「ニューオールドカリモク」

STORIES | 2025/03/28

「自分に本当に自信がなかったから、最初はものづくりをすることで愛されたいと思っていた」──。デザイナーとしてYUKI FUJISAWAを立ち上げた2011年当時、大学生だった頃のことを思いだしながらゆきさんはそう振り返る。

大切にしてきたのは、ヴィンテージの布や糸、ニットに、染めや箔をほどこすものづくり。今ここに流れ着いた、かつて誰かが愛したものたちに手を加えれば、眠っていた息吹や魅力が再び目を覚ました。手渡された誰かにその記憶が受け継がれていくことは、時をこえて、この世界に愛が重なっていく行為でもある。その瞬間をまなざしながらものを生みだしていくなかで、ゆきさんの視線は自然と、自分ではなく、喜んでくれるお客さんや、一緒にものづくりをおこなう作り手たちに向いていったという。

「ものづくりを続けているのは、好きな人たちとおしゃべりするための共通言語みたいなものだから。『ニューオールドカリモク』も、自分が尊敬する作家の方々と一緒に、どんな新しい景色を見られるだろうという気持ちがありました」

『ニューオールドカリモク』は、ゆきさんが送った一通のお問い合わせメールからはじまった。

「2022年だったかな。カリモク家具のスツールに関するお問い合わせを、メールフォームに送ったんです。カリモク家具はオーダーメイドのようなこともやっているようだったので、自分でスツールの色を塗って変えたりもできるのかな? って思って」

そのお問い合わせに返信したのは、まさかのカリモク家具の取締役副社長・加藤洋さん。当時の洋さんからの視点もぜひあわせて読んでいただけたらきっと面白いと思うのだけれど(木で幸せになる人を増やしたい──過去と未来をつなぎ、見果てぬ夢の向こう側へ│カリモク家具 加藤洋)、「こんなこともできませんか?」という期待に満ちた、日常の一歩外側へと踏みだすようなゆきさんの提案が、直々にフォームに返信することなどめったにないという洋さんの心を動かした。

「のちのちその方が、木をものすごく愛する名物副社長であることがわかるんですけど……そんな洋さんから、Zoomしませんかというメールをいただいて。話をするうちに、YUKI FUJISAWAバージョンの家具をつくりませんか、なにか一緒にやりませんか、という話になったんです」

2023年4月の“もりやまてい”でのアランニットお披露目会にも、洋さんをはじめ、カリモク家具の方が足を運んでくれた。「プレゼントがありますって言って、木のボタンをつくって渡してくれたんです」と目を細めながら言う。

「カリモク家具に比べたら、YUKI FUJISAWAは個人でやっている小さなブランド。それでも本当にクリエイターを大切にしてくれていると感じました」

その後、ゆきさんもKarimoku Commons Tokyoや、愛知県東浦町にあるカリモク家具の工場などを訪れ、“ハイテク&ハイタッチ”という言葉に表されるものづくりの精神に触れていく。人のからだを支えるための、高品質を保つための高い技術。加えて、テクノロジーを駆使しながらも人の手の仕事が尊重されるところや、家具に不向きとされている小径木や曲がった木、虫食い材などを“フィンガージョイント”の手法で加工し、利用している過程などを目の当たりにして、自分がやってきたこととの親和性を深く感じるようになっていく。

「ヴィンテージの素材を用いてものづくりをしている自分にとって、共感するところがたくさんありました。Karimoku Commons Tokyoに足を運んでみても、いわゆるショールームとはまた違った雰囲気があって。虫食いや、経年変化のあるスツールが自然に並べられている姿も印象的でした。
“Karimoku Case”や“Karimoku New Standard”では、著名なクリエイターもですが、アップカミングな人たちを迎えていたり、コペンハーゲンなどの北欧の作り手とものづくりをしていて。もちろん利益も大切だと思うのですが、ものづくりの責任に自覚的でありながら、自分たちと親和性の高いクリエイターと実験しているような姿がユニークだなって」

『ニューオールドカリモク』のお披露目に至るまでには、はじまりのメールから約2年半の時が流れている。その期間は、お互いを知るための時間であり、両者だからこそ生みだせるものを納得いくまで熟考するために必要な時間だった。

この時間を長いと思うか、短いと思うか、どちらだろう。わたしははじめに聞いたとき、少し長めかな、と感じたのだけれど、このプロジェクトに記録者として伴走するなかで、自分が“当たり前”だと思っている時間感覚は、なにに由来しているのだろう? と、捉え直さざるをえないような瞬間が何度も訪れたのだった。

「カリモク家具さんからは、本当になにをつくってもいいですよと言われたんです。けれど、わたしはお題をもらって打ち返すほうが得意なデザイナー気質なところがあって。すでに素敵なアイテムがたくさんあるから、YUKI FUJISAWAのデザインで一から新しいものをつくるのはなんだか違うなという気がしていました」

そんなとき、洋さんから手渡されたのが虫食いのナラ材。虫に食べられた木が自己防衛のために分泌するタンニンに鉄媒染が反応し、夜空のような濃紺色に染まることに目をつけた。虫食いのところを金継ぎのように埋めていけば、星空のように瞬いてかわいいんじゃないか……。自分がつくるべきものの手がかりをつかみはじめ、より一層、木のことが知りたくなった。

「これまで本を読んで木の勉強をしていただけだったので、もっと源流に触れたくなって。カリモク家具さんが契約している岐阜県飛騨市の森林を見学させてもらいました」

森林を見学した経験が、ゆきさんの頭のなかをひっくり返した。里山に関わっている人たちの時間感覚が、東京を拠点にしながらものをつくり、発表して、購入して……という、普段馴染んでいる創作と消費のスパンとまったく異なるものであったこと。「祖父が育てた木を孫が伐採する」というような時間の長さをかけて、木材が今の自分の暮らしの場所にやってきていること。そういった環境では、自分の力ではどうにもならないことを受け入れる必要性があるということ。

「わたしの場合は、いろいろな人と関わりながらも基本的にはひとりという単位でやってきたので、自分だけで完結するような感覚もあるんです。でも、自分が植えた木を、次の次の世代にまで受け継いでいくみたいなことって、“自分さえよければ”みたいな考えじゃ絶対できない仕事だなと思って。次の人を信じて、バトンを渡すみたいなこと。信頼する力みたいなもの。木ってそういう営みがあるなっていうのを改めて感じました。今の消費社会とまた違う時間感覚をもちながら働いて、生きている人たちをまのあたりにして感動してしまって」

人間ひとりの時間だけではない時間軸をもっているものたちの存在感の大きさ。その大きな流れに乗るのは心地がよく、自然なことのように感じたこと。森から帰ってきたゆきさんは、知恵熱をだしたそう。この実感は、「オールドカリモク」という言葉との出合いもあいまって、『ニューオールドカリモク』の構想の根幹となっていく。

「カリモク家具さんの昔の商品が “オールドカリモク” って呼ばれていることを知ったんです。それが面白いなって。人の営みのなかで、お客さんが自発的に呼んでいる愛称。家具が愛されてきた証のようなエピソードだなって。
新しいものをつくらなきゃ、つくらなきゃ、と思っていたけれど、そうだ、自分がこれまでやってきたことに立ち返ればいいんだと思えました。次へとバトンを渡していくようなことがしたい。それで、古いカリモク家具“オールドカリモク”を集めて、現代の作家が手を加えて、時を継いでいくものづくりをしようというアイデアがまとまったんです」

これが2024年初夏のこと。つくりたいもの、見たい景色が決まってから、いざ実制作へ。ここからは、ものづくりのペースが加速していく。

「最初は自分ひとりで、とも思っていたんですけど、せっかくだったら、尊敬する、自分がファンでもある作家の人たちと一緒につくりたいなと思いました。木彫作家のうまのはなむけさん。木工旋盤作家の市川岳人さん。イラストレーターの三宅瑠人さん。会場音楽とオルゴールの青葉市子さん。記録を手がけてくださる写真家の濱田英明さんや、制作日記を担当してくれる由芽さんもそうです。展示の空間設計を担ってくれるHYOTAさんも。みんな、ものづくりに対してすごく正直でまっすぐで、尊敬している人たちです。同じ時代に生きていて良かった、と思う」

どの作家からも、依頼に対して、すぐに「いいよ」と快諾があったという。カリモク家具のアイテムとの組み合わせは、ゆきさんが提案したものもあれば、相談したものもあった。「自分が一番のファンでもあるから、“もっとこうしてはどうでしょう?”って提案しながら、全部決めるということもせず、一緒に話していきました」。

ゆきさんは、「わたしと仕事をした人の多くは、“やったことないことをやらされる”と言います」と笑う。それは意図的でもあるのだ。

「自分も含めて、渦中にいるから見えないものや、ルーティーンになっていてつくりやすいからといって、ほかの可能性に目が向かないこともある。自分が外の立場から入るときは、そこをあえて踏み外してもらうことをしているところもあります」

関わった相手は、最初は少し戸惑うことが多いけれど、最終的には「面白かった、次につながった」と言ってくれることも多いと、安心したような、うれしそうな顔を浮かべて。

「できあがったものを見てみたら……すごくいいものができました。世界にひとつだけの一点物がつくりたかったけれど、一点物で終わってしまうのが惜しいと思ってしまうぐらい。オールドカリモクならではの味わいと、カリモク家具さんの職人さんたちの仕事、そして作家さんたちのきらめきが混ざって、こんなに情熱のこもったものができるんだって。自分も喉から手が出るぐらい……それぐらいのものができました」

そんな作家とのものづくりを、ここから少しばかり、ゆきさんの言葉を交えながら紹介していきたい。

 

✳︎市川岳人×Karimoku ライティングビューロー・トロリー・食堂テーブル

「市川さんの旋盤の作品は以前から好きで、個人的にも購入していて。木を素材にしていながら、すごく緊張感があるんです。ご本人がつくるものは小さめのサイズのものが多いので、家具になったらどんなに素敵だろう? と思ってお声がけしました。

どれも素敵だけど、個人的には脚の部分を削ってもらったダイニングテーブルが意外性があってお気に入りです。シルバーに塗装してもらったのですが、これはカリモク家具さんが、脚の部分をブラウンのメタリックだと、影になって見えづらいかも? と提案してくれたこともあって、明るいメタリックの仕上げに。市川さんの凛とした作風が際立ちながら、どこかこれまでの市川さんの作品とは異なる雰囲気もでていると思います」


 

✳︎うまのはなむけ×Karimoku 電話飾り台・馬の肘掛椅子・リスの肘掛椅子・ライティングキャビネット・整理箱

「うまさんは、最終的に一番多くの作品をつくってくれました。どれもいいですが……いちばんの大作は、ライティングキャビネットでしょうか。カリモク家具の方々も、こんなものが彫れるのかと驚いていました。今回ご一緒してみて、つくるスピードにも感激しましたね。このクオリティでこんなに自由に生みだせるのは、やっぱり魔法使いだと思います。

木で彫られた2匹のお魚の取手は、くるりと回遊するように対につけています。カリモク家具の職人さんから“これは揃ってなくて大丈夫?”と聞いてもらったのですが、あえてちょっと泳いでいるような、いきいきとした感じをだしたくてそうしているんです。5段チェストにはクマたちの頭とお尻を彫ってもらっていて、たぶん上にひんやりとしたガラスがひかれているので、そこから連想してシロクマたちにしてくれたのかな? と。うまさんは本当に生き物たちをよく見ているし、物語とユーモアがある。どのアイテムからもそれが感じられると思います」

 

✳︎三宅瑠人×Karimoku 花台・壁掛け棚&木製おもちゃ・食堂椅子(2脚)

「わたしが感じている三宅くんのいちばんの魅力は、時代をこえていくような図鑑のようなタッチの絵。それに加えて、もともと花台として使われていたサイドテーブルには食物連鎖の関わりが描かれていたり、うまさんとはまた異なる、ウィットに富んだユーモアが素敵だなと思います。

三宅くんは、ほかの作家さんと違って絵で参加してくれているので、アイテムとしては複製が可能なんです。なので、今後色違いなどをつくっても面白そうだなと。次回やってみたいアイデアの話もしてくれて、それも実現したいなと思っています。

今回お願いした作家さんはみんな人気者で、忙しい人たち。だからひとつのアイテムだけご一緒するという考えもあったとは思うのですが、わたし自身、工場に何度も足を運ぶことで発見があったし、職人さんたちとやりとりを重ねることで、どんどん良くなっていく感覚があって。なので、どの作家さんにも複数アイテムをつくってもらうことは強くお願いしたことでもあります。今後も、この“ニューオールドカリモク”をプロジェクトとして続けていきたいと、カリモク家具さんとも話しているんです」

 

✳︎銀河の宝箱、青葉市子「アンディーヴと眠って」オルゴール

「銀河の宝箱の塗装方法は、カリモク家具さんと検討を重ねたものでした。はじめは、鉄媒染だけで染められるかと思ったのですが、そうすると、木の柔らかな表情が消えてしまったんですよね。それで、カリモク家具の佐藤さんというベテランの塗装職人さんと相談するなかで、適切な染めの方法を提案してもらって。ああ、ものづくりにおいて大切なことは現場で起きているんだなと改めて実感しました。忘れていたわけではないけれど、忘れかけそうになることを思いだすことができて、デザイナーとしてこれからも足を運んでものづくりをしようと思ったきっかけでした。

市子ちゃんは、音楽の天才であり、魔法使いだと思います。オルゴールにするために“アンディーヴと眠って”をピアノで編曲してくれたのですが、オルゴール屋さんと一緒になって感動してしまいました。市子ちゃんたちと一緒に旅した島で目にした星の砂を、オルゴールのデザインに散りばめています。このオルゴールは、うまさんのライティングキャビネットや電話台にもそっとしのばせています」

 

✳︎YUKI FUJISAWA×Karimoku 虫食い花台ほか、各作家とのコラボ(馬の肘掛椅子、リスの肘掛椅子、食堂テーブル、食堂椅子、整理箱)

「今回のカリモク家具の仕事で、久々に自分の手で布を染めるということをやったのですが、染めるのが大好きだなって思いました。プリントも好きなのですが、布に色が染みていくみたいなものは自分のなかで特別で……。色やテクスチャーというものにずっと興味があるんだと思います。いつか、自然豊かな場所で、植物染料を使って染めて生きていきたいと思うほど。ピンクとブルー。夢が見られそうな色じゃないですか? サイドテーブルのほうは、虫食いで夜空を表現した、あの木材を天板に使っています。

わたしはうまさん、市川さん、三宅さん、市子さんそれぞれと、コラボレーションしています。うまさんに馬やリスを彫ってもらったアームチェア。市川さんにシルバーの脚を担当してもらったダイニングテーブル。三宅くんの絵をシルクスクリーンで刷ったダイニングチェア。市子ちゃんのオルゴール。好きな作家さんと、自分も作家として一緒にものづくりをするというのは、やりたかったことでもありました」


 

“アップサイクル”という言葉を聞くようになって久しい。捨てられてしまうかもしれなかった、不要とされているものを活用することは、いいことであると思う。そのうえで、ゆきさんには、かたちだけのアップサイクルに対して違和感があったのだという。

「わたしがYUKI FUJISAWAとして活動をはじめた頃は、リサイクルやエコという言葉が使われていて。ここ数年で、アップサイクルという言葉が主流になってきていると思います。アップサイクルをすればいい、ということではなくて、受け取る人が本当に欲しいものをつくりたいと、日頃から考えています。そうしないと、作り手側だけの問題解決や、満足になってしまうから」

ゆきさんが言う、「本当に欲しい」というのは、どういうものだろう、と考えてみる。これまで話にあがってきた、木の営みの時間軸、カリモク家具に感じた、森林や人間に対するものづくりの責任、ずっとYUKI FUJISAWAとして大切にしてきた、時をこえるものづくり……。それらを踏まえれば、ゆきさんが考える「本当に欲しい」という欲望は、煽るように注目を集めて、焦らせるように購買意欲を掻き立てる、という類のものではないだろう。ではなんだろうと考えて、わたしは自分の経験をひとつ、思いだす。

『ニューオールドカリモク』という展示をおこなうのだという話を聞いて、はじめてKarimoku Commons Tokyoを訪れた、2024年夏のこと。夏は大好きだけれど、気候変動の影響もあり、暑すぎる気温のさなかだった。ご多分に洩れず、仕事のせわしなさに余裕のないわたしは、Karimoku Commons Tokyoに足を踏み入れ、余白のある空間に囲まれたとき、この空間をどこか、自分と遠い存在のように感じていた。一日の大部分を仕事に使っているようなせわしない時間軸。ものが溢れかえった、賃貸暮らし。家のあれこれの手入れもままならない、生活をおざなりにしている自分は、こんな家具に見合っているのだろうか。そんなふうにどこか隔たりや、自分ごとではないように思っていたのだった。

けれど、その空間で時間を過ごしているうちに、だんだん心が凪いでいくのが感じられた。そして突然、あ、これらは全部、木の家具なのだ、ということにはっきりと気づいた。なめらかで、座り心地の良い椅子に腰を落ち着けながら、こういうものと一緒にずっと生きていけたらやっぱり、どんなにかいいだろうと思った。身を置く空間によって、触れ合う家具によって、自分の心やからだの佇まいは確かにより良いほうに変わっていくのだろう。ならば、変えていきたい──。2、3時間のあいだに確実に変化していった、不思議な時の流れを経験した。

時間がかかっても、その人が自分の望みを思いだせるということ。時間をかけて、本当の願いをかたちにしようと歩んでいけること。誰かに埋め込まれるのではなく、長い時間をかけて自らのなかで芽吹き、花ひらいていくような願いの叶え方がきっと誰のなかにもある。そういう一連の手ごたえが、YUKI FUJISAWAが考える「本当に欲しいもの」なのではないだろうか。

「どういう余白をもって手渡すかは、いつも考えています。受け取った人が、想像を膨らませる余地があるかどうか。あと今日、新しい靴を履いてきたんですけど、靴って1キロは歩かないと、自分に馴染んでいるかわからないなって思って。お店のなかで、10cmぐらいのエリアをちょこちょこ歩いてもわからないんです。自分のものになっていくまでには、それぐらい時間がかかるということなのかなとも思うのですが」

カリモク家具とのものづくりにあたって、ゆきさんは「修理インフォメーション」という、メンテナンスセンターが発信しているブログを熟読していたそうだ。

「ニューオールドカリモクは、直して使っていくことのひとつのかたちです。時を越えて、直しながら、時を継ぐように、使っていく。そうやって慈しみも、愛おしさも、美しさも増していくことを伝えられたら。見るだけじゃなくて、関わりたいと思ってもらえるような、そんな展示になったら。カリモク家具さんとの取り組みを通じて、そういったものづくりの責任のようなものにまつわる、自分たちの姿勢のようなものもひとつ表明できるものになったんじゃないかなと思っています」

時を越え、たまたまここに流れ着いたものに、あらたな手仕事をほどここす。布から、木に変わっても、そこには変わらない思いがある。ゆきさんが話していたことで印象的だったのは、「古いものたちがいきいきと蘇ることに、自分自身が癒される」という実感の話だった。こんなふうに、ほかでもない自分のなかに生まれた切実な愛おしさこそが、きっといろんなかたちで周囲に伝播していくのだろう。

個人の記憶や愛情のようなものは、儚いものでもあると思う。わたしひとりが消えてしまえば、二度と巻き戻したり、再生したりはできないのだと、どうしようもなく心細く思うこともある。けれど、かつての誰かもこの世界をなんだかんだと愛しながら生き、まだ見ぬ誰かもできる限りそうあってほしいと願った記憶は、消えているように見えても、痕跡はそこかしこにあるのだ。

誰かがこの世界を愛そうとした痕跡を大切なものとして扱い、「確かにあった」と存在する世界に変えていけるのは、いつの時代もいまを生きるわたしたちの、残そうとする意志にかかっている。たとえ断片的であっても、つぎはぎしながら。YUKI FUJISAWAの営みを見ているとありありとそう思う。自分自身が愛されたいという願いからはじまった歩みが、この世界ができるだけ愛せるものであってほしいというものに変わっていったのは、ものづくりを共有してきた相手から、あるいは記憶のバトンを彼方から渡してくれた見知らぬ誰かから、愛のかけらを受け取ってこれたからこその現在地なのではないかと思うから。

光も闇も、そのあいだのグラデーションも無数にある世界で、なにが光で、なにが闇だと割り切ることは難しい。それでも、時をこえて記憶を受け渡していくことは、世界の光のほうになんとか踏みとどまる力だと言い切りたい。だから、このバトンを受け渡していく人はきっとこれからも絶えない。

 

Words:野村由芽

Photo:濱田英明(ポラロイド以外)

LATEST



© YUKI FUJISAWA