ストーリー

アランニット制作日記 7月/2019年のニットの色を決める

アランニット制作日記 7月/2019年のニットの色を決める

  今日からライターの橋本倫史さんによる制作記録が始まります。ヴィンテージ古着に箔と染めを施すことで、新しく生まれ変わらせる「NEW VINTAGE(ニュー ヴィンテージ)」シリーズ。白い無垢なアランニットがどのように変化していき、お客さまの手元に届くまでの、制作の日々を記録していきます。  その日も朝から曇っていた。ここまで晴れ間が見えない日が続くのは、統計を取り始めてから初めてのことだという。半袖では肌寒く感じるけれど、7月にニットで溢れている風景に少し驚く。  「このアトリエに移ったのは1月なんですけど、まだこの子たちの定位置が決まってないんです」 丸椅子の上に立ち、棚の上に置かれたニットを下ろしながら、ゆきさんが教えてくれる。 「毎年ニットが始まるときになると、棚を整理して、定期的にこの子たちのお引越しをするんです。そのたびに広げてみて、『この子、まだここに居たのね』と思ったり、『ああ、こんなのも今の雰囲気に良いかも』と思ったりして。10月にはニットを並べたいから、だいたい夏、7月ぐらいからニットを触り始めてますね。夏の暑いときにニットの制作を始めて、秋に届けることが多いです」 アトリエには様々なニットがある。セーター、カーディガン、ベスト。「ベストは今年面白いかも」とつぶやきながら、ひとつひとつ広げて確認している。 「ウールのニットは状態が変わってきてしまうものもあるから、『そろそろ出したほうがいいかも』と思って使うこともありますし、『もうちょっと寝かしておくと、このデザインは時代がもう一回巡ってくるかな』と思って寝かしておくこともありますね。 あと、形が様々なんですよ。いわゆる普通のセーターと呼ばれる被りのプルオーバー。襟付きのものも形が様々で、首が詰まって丸っこいもの、Vネック、『開襟!』という感じの襟が大きなものと。こういう大ぶりな襟のカーディガンはちょっと古い雰囲気があるのだけど、でも、逆に今、こういうのを羽織りみたいに着たら素敵だろうなと思って、ひとまずサンプルとして染めてみようと思ってます」 積み上げられたニットの中には、何年もアトリエに置かれているものもあれば、買い付けてきてすぐに出て行くものもある。数あるニットから、ゆきさんは何を基準に選んでいるのだろう?  「そう言われると、どうやって選んでるんだろう。選ぶのが一番時間かかるかもしれないです。今月に入ってからずっと、この子たちを引っ越しさせながら選んでるんですけど、まだ腑に落ちてなくて。『今日選ぶぞ!』と決めて選び終えることはなくて、ギリギリまで迷います。夏休みの宿題が8月31日まで引き伸ばしちゃう感覚です。  たとえばこれは、右はほっこりし過ぎてて、少し野暮ったいなと感じます。同じほっこりさのある雰囲気でも、左のほうがポケットのボタンだったり、襟の形が面白い。面白いっていうのは、より個性があるし、今の気分に合っている感覚があります」 同じ時代を生きていても、わたしたちは皆、さまざまな気分を生きている。そんな中で、ゆきさんが「今の気分」と感じるものに共鳴した人たちが、YUKI FUJISAWAを手にとってゆく。では、ゆきさんはどんなところで「今の気分」を感じているのだろう。 「私はヴィンテージ素材を生まれ変わらせることが主で、ファッションデザイナーではないんです。なので、流行を読むみたいなことはあまり意識していないし、『こういうものを流行らせます』みたいな感じではなくて、作品を買ってくれる人と興味の対象や感覚が近いデザイナーだと思うんです。 だから、本を開いたり、街を歩いている人を見たり、テレビをつけたり、生活の中のいろんな点を見てゆくと、『皆は今、なんとなくこんな気分なんだろうな』と思う瞬間があります。伊勢丹に行ったとき、『ああ、今年はこういう質感の服を着てる人が多いな』とか、『タピオカ流行ってるな〜』とか。 それらが直接制作にリンクするわけじゃないですけど、皆がどこに興味を向けているのかってところから掬っていく感覚です」 ゆきさんはニットの毛玉を見つけると、毛玉取り機で毛玉を取り除いてゆく。 「染めに出す前に毛玉を取って、返ってきたらまた毛玉ができてるから、またむいむいむいむい毛玉を取ります」。市販の毛玉取り機は電池式のものが多いけれど、それだとあっという間に電池がなくなってしまうので、コード式のものを愛用しているのだという。 「話していて思い出したんですけど、電車の中が結構重要なのかもしれないです」。毛玉がきれいに取れたか確認しながら、ゆきさんが言う。 「前のアトリエは台東区にあって、日比谷線に1時間近く乗って通ってたんですね。そうするといろんな街を通ることになって、自分以外の不特定多数の人を見ることができて。どんな服を着てる人がいるか、どうやって過ごしている人が多いか、どんな広告が出てるかを見ながら、『この電車の中でどんなニットを着ている人が立っていたらら面白いだろう?』ってことを想像している気がします。そうやって考えてないけど考えている時間みたいなのって大事ですよね」   形を選ぶと、次は色だ。アトリエにあるニットの多くは、クリーミーな白い糸で編まれたアランニット。白さが特徴のニットを、染料で染めてゆく。 「このニットはそもそも、後から染めるってことを想定して作られてないんです。赤いニットが欲しかったら、最初から赤い糸を買ってきて編みますよね。それを後から染めようとすると、それぞれ染まり方が違うんです。どこのウールを使っているかによって染まり方が違ったり、糸の太さなど紡績方法によっても違ったりするんですよね。 だから、『なんとなくこんな色になるだろうな』と思いながら染めに出してみても、思った以上に染まってしまったり、全然染まらなかったりすることもあります。同じブランドや似た質感のウールだと他の人が編んでも同じ色に染まることが多いので、過去に染めたニットの端切れをサンプルとして、こうやって残してあるんです」 染めの作業はアトリエではなく、工場に出して染めてもらっている。まずは7月のうちに「サンプル」を工場で染めてもらって、そのあとで「量産」してもらうのだという。しかし、YUKI FUJISAWAで扱うニットはヴィンテージで、いずれも一点限りのものだ。そこで言う「サンプル」とは一体何を指すのだろう? 「そう、私の場合は扱うニットが全部一個一個違うから、染めても必ずブレが出るんです」とゆきさんは言う。...

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